他人の書いた『幸せになる方法』では一生幸せになれない
世の中には“マニュアル”というものがある。
男なら持っていなければならないカーライセンスのことではない。
『取扱説明書』、通称『トリセツ』である。
全国10万人の頭がいっぱい読者の方々ならばご存知かとは思うが、私は3月に引っ越しをして、現在は福島県の浜通りに住んでいる。
そう……「あの」福島県である。
それはいいとして、新居に引っ越したならば買うものは多い。洗濯機、冷蔵庫、ガイガーカウンター、防塵マスクなどどれも生活に必要なものばかりだ。
特に洗濯機の設置は一つの試練である。
「ちわーっす、〇〇電気から来ましたー」
と、なんともウブな声・・・
玄関先に現れたのはどう見ても今年高校を出たばかりの男の子二人組だ。(しかもむっちゃ汗臭い)無類の高校生好きの私も、この時ばかりはピクリとも反応できなかったがそれはどうでもいい。
〇〇電気「から」来ましたって消防署の「方」からきました、の消火器詐欺になんか似ているなぁ、と思いつつ笑顔で対応。
「じゃっしまーッス」と二人は家に入り、ドサドサと養生用のマットを並べ始めた。(マットむっちゃ臭い)
息を切らし熱気をむんむん漂わせながら洗濯機を運ぶ二人、ウムこういうのも悪くないではないか、と思ったかは別にしてようやく、嫁が独断と偏見で購入した重さ100キロの洗濯機が御到着ましました。
洗濯機を防水パンに乗せ、さて次は排水ホースの設置である。
この時点で結構違和感に襲われていた。
「ちょっといいッスか?」と言って説明書を漁り出す二人・・・。
円陣を組んで何やらゴニョゴニョやっている。
まぁ、高校生だからねぇ、仕方ないかぁ、こうやって仕事を覚えていくんだよね。まぁそれにしても、ビヨンビヨンしなる新品の排水ホースをいちいちつまみ上げては覗きこんで、そのまま空中で手を離し、ビターン!って壁に叩きつけるのは止めたほうがいいとおじさん思うなぁ。もう4回はそのビターン!聞いてるんだけどなぁ。
「ヨシ!これでやるか」(「ヨシ」じゃねーよ)と言って作業にかかる二人。
数分後・・・
すっぽーん!じょろびじゃ
と、あってはいけない音ががが
「いやぁこの洗濯機排圧が強くて、洗面所の蓋がふっとんじゃいましたよ~」(笑)
そうだよねぇ、やっぱり最新の洗濯機は築30年のアパートの設計思想と相容れないところがあるからねぇ、うん、君たちは悪くない、悪いのは環境のせいなんだ。
ていうか、じょろびじゃ、っってここは賃貸なんですからそんな水をぶち撒いたら、ってぁあそれは僕が西東京市のお風呂の王様で買った思い出の温泉タオルなんだけどもう使っちゃったね。まぁ見るからに薄生地で雑巾ぽいけど、お前それ人んちのタオルだろうがぁよォ!何勝手に排水口の周り拭いてんだよォ…
こんなことがあってもまぁ高校生ですからねぇ、仕方ないっちゃしかたない、こちとら九州男児、大人がこんなことで騒いじゃいかんですたい。
まぁもう12時だし、イライラしてても仕方ナインで僕は別室で飯でも食って作業が終わるのを待ちますよ~てなわけでパソコンで映画みながら飯を食ってると
「しつれしまーっす」と言うなりガラっとふすまを開けて高校生が立っている。
「ちょっと外出てくるんでぇ」
30分後・・・
「じゃぁ作業しま~ッス」
っておめぇら今絶対飯食ってただろう!!
っていうかドア開けっ放しで出て行くなよ!
新居は団地である、しかも山を背負っている団地だ。見渡す限り山、山、山、マルト、しかない土地である。団地の明かりと熱気に誘われて虫が大量に飛来する正にホットスポットなのだ。
私は虫が嫌いなのだ!
10分後・・・
「やっぱこの洗濯機排圧がすごくてですねぇ、いろいろやってはみたんですが水が漏れてきちゃうんですよぉ、まぁでも洗濯機はどこも壊れてない大丈夫なんで、なんで洗濯機能は使っても乾燥機能は使わないほうがいいっすねぇ」
「あ、あとここ外れるんで」(パコパコと排水口の蓋を動かす)
あぁよかった、洗濯機が無事ならそれでもういいです、洗濯機が無事ならね・・・
乾燥機能が使えない全自動洗濯・乾燥機なんてなんて、メーカーもホント無駄な物を作ったよなぁ
「よかったらここにサインください」
はい、サインね。ここにサインしたら帰るんでしょ?
じゃあサインしますからね。
さっさと帰ってね。
こっちはあなたの上司に今から電話しますんでね。
ひとときの「一仕事終えた感」を味わって帰ったら地獄を見るが良いね。
…と高速で心でつぶやいてニッコリ笑顔は忘れない。
それにしても、ずいぶんと熱心に取説ばかり読んでいたけど、一体何を読んでいたのかなぁ?
「ん?」
『「ここ外れますんで(パコパコ)」』じゃねぇよォ~
ちゃんと取説に「両面テープで固定する」って書いてあんじゃねーかよォ~
びしょびしょにしたせいで両面テープバカになってんじゃんかよォ~
取説をいくら読んだところで実行する事ができなければ全く意味が無い。
問題なのは書いてあることを理解しそれを実践することだ。
これがなかなか難しい。
そりゃ書いた人はそうやって生きてきたんだから出来て当然だろ。
人間、顔があって胴体があって手足があるとなんとなく同じ人間で考えることも出来ることも同じような気がしてしまうものだが、その実細かな点で色々と違うものだ。
一日3時間しか寝ない超人もいれば8時間しっかり寝ないとたちどころに死んでしまう人もいるのだ。同じ教室で勉強していたって、出来るやつもいれば出来ない奴もいる、家庭環境だって千差万別である。
「~すればよい」なんてことはだれでも書けるもの、実践するのは個人である。
あんたはそれで上手く行ったかもしれんが、全然うまく行かない人もいるのだ。
それは人生経験を積んでできるようになることかもしれないし、脳の構造上絶対に不可能なことかもしれない。
だから、他人がやってる突飛なことじゃなくて、自分ができることをまず知るべきではなかろうか。
酒はこれだけ飲めるとか、夜はこんだけ寝ないと次の朝に響くとか、こんな人間とは馬が合わないとか、自分の出来る範囲をしっかりと把握することだ。
なんか説教臭くなってしまったが、これだけは書かせてくれ。
他人のマニュアルじゃなく自分のマニュアルに従え。
言っておくが、これは自分の限界を決めろって話じゃない。
限界を超えるにしても無理を控えるにしても、先ずは自分の今いる所を知らなくては始まらないんじゃなかろうか?